寛永宮本武蔵伝 あらすじ

第一話 偽岸柳

主な登場人物

 宮本武蔵(宮本武蔵藤原政名)、 石川巌流(石川軍刀斎巌流)

 佐々木岸柳(佐々木一刀斎岸柳)、沢田杢左衛門、押田佐吉、青山文平

場所:江戸小石川(東京)

 

徳川家光の時代、武芸流行の折、江戸小石川に道場を営む石川軍刀斎巌流と言う人の道場が繁栄。この名声は肥後の熊本までも届き、同地で三千人からの門弟を抱える佐々木小次郎岸柳はおもしろくない。齢70となるが了見が狭く、漢字は違えど同名の石川巌流に嫉妬。江戸へ出向き石川巌流を思うが、弟子の沢田木左衛門が岸柳の名を騙って自分が巌流を打ってこようと提案。了解した佐々木岸柳、武蔵を倒した暁には澤田杢左衛門に二代目岸柳を与える約束をする。

沢田は押田佐吉、青山文平の弟子二人を連れて江戸へ。石川巌流道場近隣で様子をうかがうと、その評判の高さから一策を案じ、向富阪に道場を構える。看板には「一、諸流の剣法、弓、鉄砲、棒、陳鎌、槍、居合、柔術、薙刀、五人詰、十人詰、真剣他流勝手たるべき者なり」「肥州出張り 三国一無敵指南 佐々木剣刀斎源岸柳」。

時を見計らって偽岸柳の杢左衛門は小石川の石川巌流に正式に立ち合いを申し込む。が、そのとき石川巌流は病に臥せっていたため丁重に断りを入れる。仮病を使って逃げたと吹聴する偽岸柳の杢左衛門。そのうわさが江戸中に広まり、無念と石川巌流は切腹をする。宮本武蔵は義理の父親である石川巌流の仇討ちを決意する。

 

第二話 道場破り

主な登場人物

 宮本武蔵(宮田武助)、宮本伊織

 澤田杢左衛門(偽巌流)押田佐吉、青山文平

場所:江戸富坂(東京)

武蔵は、父である宮本伊織に向こう3年の暇を願い、舅である石川岸柳の仇討ちを告白。妻子とも別れ、名を宮田武助と偽って佐々木岸柳の道場への入門を乞う。はぐらかしながらなかなか道場の規則書に血判をしない武蔵だが、さまざまな土産者に気をよくした偽巌流こと沢田杢左衛門は、武蔵の我儘を聞き入れ一試合することとなる。

試合が始まり二刀流を構える武蔵。いぶかしがる偽岸柳に、自らの正体を明かし仇討ちを告げる。左剣を前、右剣を大上段に振りかぶる天地陰陽活殺の構え。丁々発止の剣の応酬。

腕前の違いを感じ追いつめられる偽岸柳。偽岸柳「参った」。その後、偽巌流は道場を閉じ蓄電。巌流の道場の看板を粉々に壊し石川巌流の無念を晴らす武蔵。この一件により、武蔵の名が広く轟渡ることとなった。

 

第三話 闇討ち

主な登場人物

 宮本武蔵

 森大内記、不破伴左衛門、名古屋山左衛門、高木牛之介

 沢田杢左衛門(偽岸柳)

場所:江戸行人坂(東京)

江戸で評判が高まった武蔵は、諸侯方より出稽古の申し込みを受けるようになる。中でも江戸屋敷目黒行人坂下、作州津山で十八万石森大内記、この方は不破伴左衛門、名古屋山左衛門、高木牛之介など多くの勇士を養っていた。

秋の一日、森大内記のところで出稽古の終わりで酒宴にあずかり、夜遅くに伴一人つれて帰途についた武蔵。十三日の月明りに千鳥足の武蔵、行人坂の半ばまで来ると向こうからやってくる酔っ払い。何事もなくすれ違ったが、またしても酔った侍が坂の上からやってくる。奇妙に感じる武蔵。坂上までやってきたところ、植え込みの中から飛び出してきた者がある。危うく武蔵は体をかわすが、怪しの者はサッと振り返り「無礼者!」。頭巾をとったその顔は、偽岸柳こと沢田木左衛門。正体を明かし遺恨を晴らそうと告げる。加勢に駆け付けた押田佐吉、青山文平、これは先にすれ違った酔っ払いであった。裂帛の気合が静寂の夜を斬る。月を背にした武蔵の策。斬り合い、くんずほぐれつ、偽岸柳こと沢田杢左衛門、押田、青山を討った武蔵。佐々木岸柳の門弟たちの敵討ちを鑑み、こちらから出向いで尋常の勝負をしようと、肥後熊本へ向かうこととする。

 

第四話 狼退治

主な登場人物

 宮本武蔵

 三島の三吉(実は関口弥太郎)

場所:箱根山中~三島(神奈川県箱根~静岡県三島)

武蔵は東海道を西へ西へ。箱根の山中、駕籠屋が煙草休憩をしている。目つきの悪い雲助の体。相手にするのはよそうと通り過ぎるが、駕籠屋が武蔵に声をかける。しつこく駕籠を勧めるが、面倒に巻き込まれまいと断る武蔵。しかし駕籠屋の挑発に負けじと駕籠に乗る。駕籠屋は三島の三吉といい、一人で駕籠を担ぐという驚くべき怪力。箱根の関所にたどり着くが門が閉まった後だった。野宿となるが、周囲には獣の気配。駕籠の垂から覗いてみると、狼。近づいてきた狼に武蔵は小刀を突きつけ殺すが、血の匂いを嗅ぎつけ狼仲間たちがあちらことらから集まってくる。一犬虚を吠え万犬実を伝う。二刀流で応酬する武蔵。駕籠屋は酒を片手に高見の見物を決め込んでいたが、狼の矛先が駕籠屋に向かう。駕籠屋は拳ひとつで狼を退散させてしまうほどの腕前。感心した武蔵が自ら名乗り、駕籠屋の素性を尋ねると、紀州の家来で柔術の関口弥太郎との由。天狗昇飛切の術(てんぐしょう とびきり のじゅつ)を伝授される。また、江戸で斬られたのは偽岸柳、本当の佐々木岸柳は熊本にいることを知らされ三島を後にする。

 

第五話 竹ノ内加賀之介

主な登場人物

 宮本武蔵

 竹ノ内加賀之介

場所:三州岡崎(愛知県岡崎)

関口弥太郎と別れた武蔵、三州岡崎の旅籠「鍋屋佐助」に泊まる。翌朝宿を立とうとすると雨。一日出立を延ばす。上り下りの道行く人を眺めている。往来の人通りが少なくなった頃、「長崎一流の揉み療治、万能及第の膏薬、揉み和らげて貼るぞ 同院に用はないかな」と流し按摩の声。同院(按摩)を呼び止めようとする武蔵に、旅籠の主は喧嘩の名人だからよせといつかの騒動を話して聞かせる。そうこうしている間に同院はどこかへ行ってしまう。その後、先ほどの同院がまた通りを流す声が聞こえた。武蔵は興味本位で同院を呼ぶ。不遜な態度だが腕前は確かなようで満足な武蔵。療治をしながら同院は武蔵が陪臣であろうと、喧嘩をしかけてくる。幾度かのやり取りの後、買わぬ喧嘩に業を煮やした同院は武蔵に当て身を食らわす。まったく意に介さない武蔵に、柔術の心得があると見抜く同院。同院は己が柔術の名人であると言い、武蔵に試してみろとけしかけ、武蔵はついに喧嘩を買って出た。大広間をぶち抜いて、武蔵と同院がくんずほぐれつ柔の組み合い。これは引き分けだと、お互いを名乗り合い、同院は竹ノ内加賀之介という柔術の名人。お互いが奥義を交換し合った。

 

第六話 山本源藤次

主な登場人物

 宮本武蔵

 山本源藤次、尾張大納言(敬公)

場所:尾州名古屋(愛知県名古屋)

その頃の三名人と言えば、佐々木一刀斎岸柳、京都の吉岡又三郎兼房(よしおか またさぶろう けんぼう)、柳生十兵衛三巌。その三名人の下につくべき人は尾州名古屋の御指南番山本源藤次という人。守りの達人だ。他流試合の申し込みを避けたく源藤次は、無用の訪問を避けられるよう二ノ丸へ入ってしまっている。

名古屋に着いた武蔵。その剣術の名人山本源藤次に教えを乞うため源藤次とは義兄弟であるとの偽りを告げて、なんとか面会にこぎ着ける。源藤次の耳にも武蔵の高名は届いていたため、この偽りは何か仔細あってのことだろうと武蔵に理由を尋ね仇討ちの次第を知る。

尾張大納言(敬公)にも話を通そうと、武蔵を引き合わせる。武蔵が剣術の様々な型のことを話すと、喜んだ敬公は源藤次と武蔵が勝負をして実地で剣術の型を見せるよう所望する。攻めの武蔵、守りの源藤次。策を弄する武蔵、それを見抜く源藤次。静、動、いずれも甲乙、勝負がつかぬ互角の戦いに喜ぶ敬公は引き分けの宣言。その後、お互いの剣術の奥義を交換。後世今に至って尾州で両刀免許の家が二軒あるのはこれに由来するものである。

 

第七話 柳生十兵衛

主な登場人物

 宮本武蔵

 柳生十兵衛(柳生十兵衛三厳)、森島半平、斑丑之助(後の荒木又右衛門)

場所:大和(奈良県)

名古屋を出立した武蔵は大和の柳生へ尋ね来た。一万石、万石以上の大名と同じような生活を送っている柳生十兵衛がいた。父は但馬守、剣術の名人だが、それ以上の腕前と言われた十兵衛。どいうわけか、気がちがっていたという噂が立っていた。

真冬に単衣で暑い暑いと風を使うような変わりよう。しかし講義ではいささか乱れることはない。とある日、講義をしている最中の十兵衛を訪ねた武蔵。稽古をつけてほしいと願いだが、十兵衛は断る。門弟は十兵衛の気の病を理由に断りを告げる。食い下がる武蔵に十兵衛は稽古で目にもの見せてくれようと稽古を受ける。十兵衛は武蔵を見るなり狂人だと決めつけ冷笑。まずは武蔵と門弟森半平、たちどころに参ったの!の半平。続いて中村軍右衛門、これも参った!幼き斑牛之助12歳、後の荒木又衛門が出ようとするが、十兵衛が止め、十兵衛自ら相手となる。

真剣勝負、つまり果し合いを求める十兵衛。しかし自分は無手(素手)で相手になろうという十兵衛に武蔵は怒りを隠しきれない。真剣、二刀流で何度も斬りこんでいく武蔵を、十兵衛は風のように体をかわす。最後には武蔵を池に投げ入れてしまう。まだまだ自分の未熟さ、天狗気分を顧み、十兵衛に頭を下げてまた旅にでる武蔵であった。

 

第八話 吉岡治太夫

主な登場人物

 吉岡治太夫(吉岡治太夫兼房)、搗米屋清十郎

 浦部東蔵

場所:京都

後に武蔵とたたかうこととなる吉岡又三郎、その又三郎の父・吉岡治太夫の物語。

武田信玄の家臣であった吉岡治太夫は二君にまみえずと、京都今出川で浪人となった。

紺屋職人としつつも道場を開くが弟子が集まらない。三条小橋に卜部藤三 浦辺東蔵の道場には三百人も集まるという道場があるという。

トンボの鉢巻

やっと訪れた入門者、横堀川出水日暮れに住む搗き米屋清十郎という町人が弟子になった。なかなか見込みのある様子だが決して他流試合をしてはないらないと戒める。

とある日、たまたま通りかかった浦部道場。道場に誘い込まれた清十郎は半ば強引に他流試合となる。筋がよい清十郎は次々浦部道場の門弟たちを負かしていく。道場の騒ぎに浦部東蔵自らが相手となる。さすがの清十郎も叶うはずもなく、次々と打ち込まれる。

幾度も「参った!」の声を上げる清十郎だが、冷徹にも聞こえないふりをした浦部東蔵はまだまだ打ちかかっていく。

幾日も稽古に来ない清十郎を心配した治太夫は清十郎を見舞う。清十郎から一部始終を聞いた治太夫は怒り心頭に発する。その足で浦部道場へ向かう。話のわからぬ浦部東蔵に、門弟が討たれて残念だと道場主同士の勝負となる。治太夫に浦部は月とすっぽんの腕前であった。「参った!」浦部は思わず訴えるが、「聞こえん」とまだまだ打ち込む吉岡。清十郎の仇を討つのであった。以来、浦部東蔵の道場は潰れ、浦部の弟子たちは治太夫の弟子となったという。

 

第九話 玄達と宮内

主な登場人物

 宮本武蔵(宮内武助)

 瓢箪屋左次郎

 大蔵院宮内、毛利玄達

場所:大阪

大阪へやってきた武蔵。関口弥太郎に聞いた話では、大阪には大和流の弓術の名人で大蔵院宮内(だいぞういん くない)、手裏剣の名人で毛利玄達(もうり げんたつ)がいるという。是非手合わせを願いたい武蔵は、宿屋の主、瓢箪屋左次郎(ひさごや さじろう)に詳しく話を訊く。

元は八百屋であった大蔵院宮内は無賭の勝負はしないという。武士が賭け試合はできぬと、武蔵は偽名の宮内武助として宮内を訪ねる。宮内は四十五、六歳の丈六尺一寸もあろうという大兵肥満の人物。あまりの速さの弓に目もくらむような武蔵だが、ひとつもしくじることなく打ち落とす。剣捌きの見事さに宮本武蔵では!と見破られかけ、逃げだす武蔵。船生洲へ逃げ込んでひと息つき、瓢箪屋左次郎の案内で次は毛利玄達のところへ。

武蔵は黒い道着に木剣を持ち、玄達の十間先へ立つ。手裏剣に白い粉をはたいて、黒い道着にどれほどその粉が付くかで手負い具合を計ろうというもの。目にもとまらぬ手裏剣を、武蔵は二刀で弾いていく。すべて弾き落としたつもりが、終わってみると黒道着に5筋の手裏剣の跡。これが稽古用の手裏剣でなければ命はなかったと気づく武蔵。落胆する武蔵は試合帖をみてさらに驚く。佐々木岸柳はあたり無し。岸柳の腕前にさらに落ち込む武蔵だった。数日玄達との稽古に励み、徐々に目が鍛えられ手裏剣の当たりが少なくなっていった。

 

第十話 天狗退治

主な登場人物

 宮本武蔵

 伴昌三、柏木半助

 吉岡又三郎(吉岡又三郎兼房)

場所:作州津山(岡山県津)

毛利玄達に手裏剣三十六本の手裏剣を貰って出立し、京都今出川の吉岡又三郎を訪ねた武蔵が又三郎は行方知れず。したかなく、作州津山にやってきた武蔵。森大内記には江戸屋敷で世話になった故、ここで挨拶に行くと長逗留ということになる。早く佐々木岸柳へたどり着きたい武蔵は森家の人に出会うことを避け、夜旅とすることにする。

立ち寄った茶店、休憩をして出発をしようとする武蔵を心配する茶店の主。この先の松並木には夜に天狗が出るという。人を殺めることはないが、いたずらが過ぎるという。実はこの天狗騒動、森家の家中で伴昌三(ばんしょうぞう)、柏木半助(かしわぎ はんすけ)の試し斬りのいたずらであった。伴昌三と柏木半助は夫婦松のところで武蔵を待ち伏せ、いたずらの百人目が宮本武蔵にあたった。武蔵の髷を切ろうとした伴昌三であったが、武蔵に殴られ二人は一目散に逃げる。追いかける武蔵。二人は若宮八幡の辻番小屋へ飛び込むと、そこにはただならぬ侍が休んでいた。天狗退治に訪れているという侍、実はこれが吉岡又三郎であった。小屋に駆け付けた武蔵は又三郎と対面。お互いが名乗り合う。又三郎の他流試合の申し出を受ける武蔵。

 

第十一話 吉岡又三郎

主な登場人物

 宮本武蔵

 森大内記

 吉岡又三郎

場所:作州津山(岡山県津)

しかし、旅を急ぐ武蔵は吉岡又三郎との丁重に試合を断る。天狗騒動に巻き込まれているうちに朝の旅立ちとなってしまった。顔バレがしないよう武蔵は深編笠をかぶって街道をゆくと、以前の剣術の弟子である渡辺清左衛門が、町奉行となったと見えて伴連れでやってくる。深編笠の男を不審に思った渡辺は声をかける。逃げる武蔵。捕まえた男は宮本武蔵とわかり平謝りの渡辺。ところへ馬でやってきたのは不破伴左衛門。武蔵を懐かしむ。森大内記公の元へ案内され酒宴となる。伴昌三が気まずいまま武蔵とあいさつを交わす。伴は吉岡又三郎の逗留、来訪を伝える。小太刀の名人の来訪と知って喜ぶ大内記。庭で対面。試合で実力を見せてほしいと、不破伴左衛門との腕比べとなる。又三郎は竹べらで十分だと、試しに松の木の枝を竹べらのみで打ち落とす。恐れをなしながらも不破は槍を構え、試合を始めるが、即時に「参りました」。次に武蔵との立ち合い。若宮八幡では討ちあうことなく別れたが、ここで立ち合いとなり縁の不思議を感じる。二刀流と竹べら、お互いに隙がない。打ち合いの動、間合いを計る静。策を弄じる武蔵、見抜く又三郎。幾たびかのぶつかり合いの後、なんと同時に「参った!」。森大内記から二人とも名人の証を得、剣術の奥義を交換するのであった。

第十二話 熱湯風呂

主な登場人物

 宮本武蔵(宮田武助)

 白倉源五右衛門

場所:播州飾東郡(兵庫県姫路)

播州飾東郡(ひきとうごおり)、姫路城下に差し掛かった武蔵。無一文で空腹、どこかの道場を捜し歩く。「無敵流剣法指南 白倉源五右衛門道場(しらくら げんごうえもん)。宮本武蔵の名を出して窮屈な思いは御免だと思った武蔵は偽名、宮田武助を名乗る。稽古試合に次々と勝つ武蔵。腕の強さに武蔵だと露見。丁重な待遇で数日の逗留となる。実は道場主の白倉源五右衛門は武蔵が江戸で斬り殺した沢田杢左衛門の義理の弟にあたり、武蔵を兄の仇と思っていた。武蔵の隙を狙おうとする白倉だったが油断のない武蔵。どんな卑怯な方法でもよいからと、門弟達に策を募り、新築した新しい風呂に風呂開きと称して武蔵に入らせ煮え湯で茹で殺そうとする。

武蔵が風呂に入ったところで戸を釘打ちにする。次々に熱湯が注ぎ込まれる風呂。熱さに気が遠くなる武蔵。風呂場が静かになったところで死んだであろうと戸を開く。意識を失っていた武蔵だったが、ヒラリと飛び立った武蔵が道場人たちを獅子奮迅で倒していき、槍の白倉とは一呼一吸、一進一退、お互いの呼吸を見計らっていたが熊手を持った武蔵に足を払われた白倉は熱湯風呂へザブン。武蔵の勝利であった。

 

第十三話 桃井源太左衛門

主な登場人物

 宮本武蔵

 桃井源太左衛門、西川太三郎

 伊東弥五郎(伊東弥五郎景久入道一刀斎)

場所:三州岡崎(愛知県岡崎)

佐々木小次郎岸柳が津山に行ったとのうわさを耳にした武蔵。三州岡崎の旅籠「鍋屋佐助」へ戻ってくる。岡崎で一番強い人の評判を聞くと、桃井源太左衛門という。あの柳生飛騨守との三本勝負で二本勝ち、一本は勝を譲ったとか、まさかと笑う武蔵。

昼飯を取っていると、稽古帰りの若侍と小僧藤吉。この若侍、西川村で名字帯刀五面の名主、西川太左衛門の倅、太三郎という。自身の腕前を鼻に掛けた太三郎は、他流試合がしたいと側にいた武蔵を煽る。武蔵は聞こえないふり。そこへ割って入った老人、腰は曲がっているが眼光するどくただ者ではない気配。桃井道場の小天狗だと強気の太三郎。老人は「武芸というのは心身を鍛錬すべきもの、道場の稽古がなっていない、道場の師匠はイカサマ師だ」と悪口。そのイカサマ師と手合わせ願おうと、老人と太三郎が道場へ。武蔵はただならぬ展開に後をつける。桃井は支度を整えて道場へやってくる。高慢の鼻を捻ってやると口さがない老人。剣を構える桃井に、指先二本で十分という老人。一部の隙もない老人、するりと木剣をかいくぐって鼻をつまんで、桃井は「参った!」

駆け寄って老人の名を尋ねる武蔵だったが、名も流儀も忘れたと煙にまかれる。

この老人こそ元上泉伊勢守(もと こういずみ いせのかみ)、八天狗の一人、伊東弥五郎景久入道一刀斎(いとう やごろう かげひさ にゅうどう いっとうさい)であった。伊東弥五郎、後世には剣術で一番強かったという説が残っている。武蔵と伊東弥五郎はお互いの奥義を交換するのであった。

※伊東弥五郎の師匠は鐘捲自斎(かねまき じさい)、伊東弥五郎は5年でこの師匠を破った。その後、鐘捲自斎へ入門したのが佐々木小次郎岸柳。

 

第十四話 甕割試合

主な登場人物

 伊藤弥五郎

 小野善鬼

 神子上典膳(後に小野典膳)

場所:越前敦賀(福井県敦賀)

閑話休題。伊東弥五郎の若かりし頃の物語。

武田家につかえる伊東弥五郎。家康は徳川家の剣術指南役にこの男が欲しかった。しかし気骨のある弥五郎は断り、代わりに弥五郎が選んだ後継者を徳川家の剣術指南役とすることとなる。

越前敦賀に道場を開いた伊藤弥五郎。中でも優秀なのが小野善鬼(おの ぜんき)であったが、慢心が剣術に隙を生むと指摘。修行に出た小野善鬼。弥五郎の道場に神子上典膳(みこがみ てんぜん)と名乗る若武者が訪れる。三州三方ヶ原の住人。いつでもどうぞ、と人を食ったような弥五郎。弥五郎は神子上に「隙をどうにかせよ、隙があるときは木の棒で打つ」という。日常生活のあらゆるときに隙を狙われる神子上。ポカリポカリと繰り返すが、もともとの地力のある男であったため、ぐんぐん伸びていく。3年の月日が経つうちには道場の師範代にまでなった。そこへ修行が開けて帰ってきた小野善鬼。新旧の師範代同士、神子上と小野が立ち会う。一本目は小野、二本目は神子上、三本目は弥五郎が引き分けとする。二人は兄弟同様となり、翌年、伊東弥五郎はふたりのうちどちらかを徳川剣術指南役に選ぶことになる。道場にて試練を与えると二人に告げる。道場の真ん中に立てられた屏風。とび越えてこいとの弥五郎。二人とも成功するも、弥五郎の後継者に推挙し天地人三巻の巻物を得るのは神子上だと告げる。理由を問う小野。修行の旅へ出ても小野の慢心の心が消えることがなかったと告げる弥五郎。いずれ神子上に敗れると、この先を見据えた弥五郎であった。屈辱から狂気の人となった小野は天の巻物を奪って逃げた。後を追う弥五郎と神子上たち。農家の水瓶に隠れた小野。小野はもう弟子ではなく盗人だとする弥五郎、刀で小野を斬れと神子上を促す弥五郎。水瓶を斬る、中から血を流して絶命をした小野が現れた。口にくわえた天の巻物を取ろうとするが、死しても放さない小野。神子上を小野と改め小野典膳とし、後世に名を残すことを約束する弥五郎。師匠の力が足りなかったことを小野に謝する弥五郎。小野は涙を流し天の巻物を手放し倒れる。天の巻物を受け取った神子上改め小野典膳。徳川剣術指南役となり、後世にその名を遺した。

 

第十五話 山田真龍軒

主な登場人物

 宮本武蔵

 山田真龍軒

場所:播州舞子浜(兵庫県)

播州舞子浜、淡路島が一望できる景観のよい地。

茶店に腰を下ろした武蔵、出立しようとするところへ、ひとりの虚無僧が入ってくる。出ようとする武蔵、入ってくる虚無僧。武蔵の荷物が虚無僧の天蓋にあたり、虚無僧の逆鱗に触れ、いざ勝負となる。天蓋を取り尺八を手にした虚無僧と、木剣を構えた武蔵。周りには野次馬が集まってくる。二刀の構えから、虚無僧は宮本武蔵と見破る。宮本武蔵に恐れもせず勝負が始まる。打ちあううちに、尺八から鎖鎌が飛び出した。ここで武蔵、相手が鎖鎌の名人、山田真龍軒と気づいた。名人だけあって崖っぷちまで追い込まれる武蔵。分銅を重しに飛んで絡みつく鎖、引き寄せられつつ絡みついた鎖が刀をこぼれさせていく。もう一方の鎌は鋭く切り裂いてくる。飛び道具に四苦八苦。武蔵も右剣、左剣を自在に操るも苦戦。天狗昇飛切術にて飛び上がった武蔵は木の枝にぶら下がり、懐から取り出した毛利玄達直伝の手裏剣を飛ばす。手裏剣は真龍軒に見事命中し勝負あった。野次馬にはやし立てられながら西へ向かう武蔵であった。

 

第十六話 下関の船宿

主な登場人物

 宮本武蔵

 佐々木小次郎岸柳

場所:下関(山口県)

下関までやってきた武蔵、明日は熊本の佐々木小次郎岸柳の道場へ行く心づもり。

宿屋の隣部屋から聞こえてくる町人たちの会話。小倉におもしろい見世物があるという。ただいま小倉に佐々木岸柳が訪れて、江戸で弟子たちを打ち殺した宮本武蔵を探しているという。明日こそは小倉で武蔵対巌流の闘いが見物できるのではないかと。武蔵は明日の熊本行きを小倉へ変更する。午前六時一番船の小倉行き、武蔵対岸柳の討ちあいを見ようという乗船客でごったがえす。

行く船の動中の陽気なこと。と、そこへ行き交う船に佐々木小次郎岸柳を見つけた武蔵。このままでは行違ってしまう。船頭に頼み近くまで漕ぎよせると、天狗昇飛切の術で向かいの船に飛び移る。佐々木小次郎岸柳は只者ではないことを悟り、自らを名乗り、相手の素性を問う。宮本武蔵であることを告げ仇討ちを宣言するが、この船では無体と灘島を決闘の場とする。

 

第十七話 灘島の決闘

主な登場人物

 宮本武蔵

 佐々木小次郎岸柳

 小笠原右近将監、三木勘解佑

場所:灘島(山口県船島)

決闘には届け出が必要と船頭に懇願され承諾する。領内は小笠原右近将監、元の武蔵の主君である。明日、辰の正刻限(朝8時)、右近将監は武士としてこの決闘を見なければいけないと、そこへ三木勘解佑(みき かげゆ)が口をはさむ。浪人通しの果し合いを殿自ら見物とはどうかと。海岸見回りと称して出かけようと提案。たのしみでしかたがない右近将監。

当時刻には灘島の周りを見物の小舟がとりまくほど。別々の船から武蔵、小次郎が灘島に到着。

時刻を知らせる太鼓が打ち鳴らされる。舅の仇、弟子の仇、お互いの運命の綾を語りかける武蔵。真剣での勝負。一方は三十代の武蔵、一方は七十代の小次郎岸柳。いよいよ決闘開始の合図の太鼓。片や二刀流、天地陰陽活殺の構えの武蔵、片や中段に構える小次郎岸柳。一瞬の静寂の後、目にもとまらぬ打ち合い、丁々発止。老練の小次郎岸柳の本性を現した途端、その気迫にのまれる武蔵。まさかの小次郎岸柳も二刀を使いだす。一刀の武蔵。集中。一刀をも撃ち落された武蔵。これまでの武芸者との立ち合いを思い返すし、柳生十兵衛の無手を思い出す。十兵衛が憑依したような武蔵、気合の声とともに体を投げる。船の櫂を用いた武蔵により小次郎岸柳の肩を痛めつける。負けを覚悟した小次郎岸柳。刀を手にした武蔵、反対に燕返し!天狗昇飛切術!再び櫂を手にした武蔵、小次郎岸柳の脳天を打ち砕く。どんと太鼓が鳴り、武蔵の勝を告げるのであった

後に武蔵は肥後熊本に佐々木小次郎岸柳の墓を建て、小次郎岸柳の愛刀女竜丸(めりゅうまる)を沈めたという。そして自らは入道して玄信となった。また、灘島は名を改めて岸柳島となり後世の今に至る。

参考資料:YouTube「神田伯山ティービー」

     八千代文庫  第19編『宮本武蔵』神田伯山/講演 酒井昇造/速記(大川屋 1916年刊)