おうみ狂言図鑑2025 新作狂言「近江鉄道珍道中」
みなさま、お久しぶりです。
今回は旭堂南湖先生が台本を執筆された新作狂言「近江鉄道珍道中」を観に、滋賀県東近江市へ出かけたときの日記です。

当日は他の予定があった大阪から滋賀へ向かいました。
京阪電車、JR奈良線、JR琵琶湖線を乗り継いで、さらに能登川駅からバスで10分。
遠かった!
でもいろんな電車やバスに乗り、移り変わる景色を飽きず眺めていることができ、それがなんとものんびりした気分で心地よかったです。特に遠くずっと見える雪の山並みに旅情をかきたてられました。


金堂(こんどう)というバス停で降車し、そこから徒歩で15分程度。
この道のりがまたすごかった。この辺りの五個荘金堂地区(ごかそうこんどうちく)は近江商人屋敷が数多く残り、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。
まるで異空間!
江戸時代にタイムスリップしたような一角で、人がほとんどいなかったこともあり、本当にどこへきてしまったの?という感じでした。

会場の東近江市てんびんの里文化学習センターの「てんびん」は、近江商人の「てんびん一本」に由来するそうです。道々まったく人の気配がしなかったのに、会場に着いた途端みっちりの人! どこから湧いて出たんだ!という田舎あるあるですね(わたしも田舎出身なので身に染みて知っていますよ)。

「おうみ狂言図鑑」は2011年から京都の茂山千五郎家の協力を得て、滋賀県を題材にした新作狂言を制作し公演、今回で14作品目。作者は毎回さまざまな分野から選ばれ、今回は滋賀県出身の講談師旭堂南湖先生が抜擢。新作狂言「近江鉄道珍道中」は滋賀県内各所で3公演を予定。
2025年1月26日(日)
「おうみ狂言図鑑 2025」 於:東近江市てんびんの里文化学習センター
おはなし:茂山茂
狂言「膏薬煉」 茂山逸平、茂山千之丞
狂言「腰祈」 茂山あきら、茂山虎真、島田洋海
新作狂言「近江鉄道珍道中」(作:旭堂南湖)茂山千五郎、茂山茂
アフタートーク:茂山千之丞、旭堂南湖
最初に茂山茂さんによる前説がありました。狂言は初めてという人に親切な解説もありましたし、茂さんのおはなしで会場がとてもリラックスした雰囲気になりました。
「膏薬煉(こうやくねり)」、いわゆるシップ薬。その商い人どうしによる効能勝負という内容です。この演目は中世の鎌倉方と都方の争いが隠喩となっているそうで、狂言版「源平合戦」とのこと。そして効能の表現が「吸う力」というのが興味深かったです。
「腰祈(こしいのり)」、中世の比叡山で修行を終えた山伏がどんな様子だったのかということを垣間見られた一曲でした。修行をして成長した自分を見てもらいたい孫と、いつまでも孫がかわいい祖父、そんな関係性がまたいつの時代もかわらず、という。虎真さんの若々しい声の張りやからだの押し出しに元気づけられるようでした。
さて、お待ちかねの「近江鉄道珍道中」。
設定が現代!
会社の社長と秘書のふたり。東京から京セラドーム大阪へ向かうはずが…という内容です。この物語には滋賀のあるある、特に近江鉄道あるあるがたくさんもりこまれているようで、客席は大きな笑いでいっぱい。ざわめきさえも起きていました。そして講談師である南湖先生ならではの言い立て(講談だったら修羅場読み)では、初演ならではのわちゃわちゃがあったのですが、お客さんが助勢する場面もあり盛り上がりました。鉄道の仕草を入れた舞や詞章も見所でした。関東者のわたしですが、この一曲を滋賀の会場で滋賀のお客さんと一緒に観ることができて、滋賀県の解像度があがったような気がします。なによりガチャコン(近江鉄道の愛称)に乗りたくなりました。
現代新作物の場合、導入部の状況説明をいかに違和感なくするかがひとつのポイントになると思うのですが、狂言は最初に「私はこのあたりに住む〇〇です」から始まる状況説明の定型があるので、今回の現代新作物にに親和性があったように感じました。

アフタートークは作者の南湖先生と演出の千之丞(演出家としては茂山童司)さん。今回のいきさつや制作秘話、講談とは?(那須与一のくだりの披露あり)、近江鉄道についてなど、「近江鉄道珍道中」を観た後にお伺いするお話は充実でした。
ロビーで販売されていた五個荘のお菓子を購入(めちゃうま!)して帰途へ。
金堂でバスを待つ時間は、これが比叡おろし?という冷たい風の洗礼を受け寒かった…。でも〽ドンドンドン~ドンキ~ドンキッホーテ~ (←観ればわかります!)を脳内再生させながらやりすごしました。


移動して、彦根に宿泊。
彦根駅で近江鉄道を見ることができました。そして茂山千五郎家は彦根藩のお抱えだったということをアフタートークで知り、偶然この彦根に来ることができてうれしかったです。
彦根の朝、琵琶湖はとてもうつくしかったです。

わたしにとってはちょっとした冒険のような旅でしたが、この充足感はいつまでも大切な思い出となりそうです。
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